- 英検3級・英語絶望レベルから始めてどうなったか(体験談)
- 「ハリポタはおすすめしない」派の主張と、それでも私がおすすめする理由
- 巻が進むごとに難しくなる理由と、それが学習に有利な理由
- 呪文のラテン語由来と、そこから学べる実際の英単語
- 始め方・読み方の具体的なアドバイス
イギリスへの留学を決めたとき、英語力は英検3級、それも合格ギリギリのレベルでした。絶望的でした。
どうにかしなければと考えたとき、参考書を積み上げる気力が出なかった。英語の勉強が続かない最大の理由は「つまらないから」で、何度か挫折した経験があったため、「続けられるもの」から逆算して考えることにしました。その答えがハリーポッターでした。日本語版を読んでいたので話の筋は全部知っている、内容が好きだから続けられる可能性がある、全7巻で長期間の教材になる。その3点で決めました。
1〜2巻:1ページに20単語わからない地獄
1巻「賢者の石」を開いた最初の感想は「全然わからない」でした。1ページに20単語近く、意味が分からない単語が出てくる。最初はひたすら辞書を引いていました。1単語調べるたびに読書が止まる。これを繰り返していると、物語を読んでいるのか単語帳を作っているのか分からなくなってくる。
段落ごと意味が取れないときは、そのページをスマホで撮影してGeminiに投げていました。「この段落を日本語に訳して、難しい単語を解説して」と送ると、文脈ごと教えてくれます。ChatGPTでも同じことはできますが、無料枠のトークン制限がきつい。Geminiは無料で使える量が多いのでおすすめです。この「詰まったら撮影して投げる」方式にしてから、読書が止まらなくなりました。
3〜4巻:頭から英語が入ってくる瞬間
2巻を読み終わった頃から、辞書を引く頻度が減ってきました。知らない単語があっても、前後の文脈で「たぶんこういう意味だろう」と推測できるようになってきた。そして3巻を読んでいる途中で、初めて「あ、英語が頭から入ってくる」という感覚が来ました。日本語に置き換えずに、英語のまま意味が理解できる瞬間です。
この感覚が来ると、読むスピードが別次元になります。4巻「炎のゴブレット」は1〜2巻の2倍以上の分量があるのに、体感の速さは1巻より早かった。4〜5巻あたりで渡英し、現地で会話を聞いていると、本の中で出てきた表現が何度も出てきてびっくりしました。「あ、これ読んだやつだ」という瞬間が積み重なると、英語が自分のものになっていく感覚があります。留学後も読み続け、最終的に全7巻を読み終えました。7巻まで読んで改めて思うのは、1巻のあの「全然わからない」という感覚が、はるか遠くに感じられるということです。
同じシリーズを通して自分の成長を確認できる。これはハリーポッターでしか得られない体験だと思っています。
この体験があるので、「ハリーポッターで英語力は上がるか?」という問いには迷わず「上がります」と答えられます。ただし、「どう使うか」によって効果は全然違う。それを正直に書いていきます。
「Harry Potter and the Philosopher's Stone」J.K. Rowling 著
おすすめしている立場として、デメリットも正直に書いておきます。
Quidditch、Horcrux、Muggle、Apparate……これらはハリーポッターの中だけで使われる造語です。読んでいる間に確実に出てくる単語ですが、実生活で使うことはまずない。語彙学習として考えると、ここに使った記憶の容量は他のことに使えたとも言えます。
ただし後述しますが、呪文の多くはラテン語に由来しており、そこから実際の英単語につながるルートがあります。完全に無駄というわけではない、という立場です。
1巻の賢者の石は子ども向けに書かれた本です。しかし実際に読み始めると、「子ども向けなのに全然読めない」という壁にぶつかります。最初にそれを体感したのが冒頭の1文でした。
(Harry Potter and the Philosopher's Stone, Chapter 1)
文の構造は単純です。しかし「thank you very much」を文末に置いて「だから何だ」「当然だろう」という皮肉・強調のニュアンスを出す用法は、教科書に載らない感覚的な表現です。こういった「短い文なのに伝わらない」瞬間が、序盤は連続します。
他にも、日常的なフレーズを使ったイディオムがそのまま出てきます。
(同 Chapter 1)
「beefy」は「がっしりした、たくましい」という意味ですが、辞書を引かないと分からない。「hardly any neck」も「首がほとんどない」という意味で、視覚的に伝わる表現ですが初見ではつまずきます。子ども向けの本でも、こういった語彙の罠は随所にあります。
さらに会話文になると、口語的な省略や短縮が増えます。
(同 Chapter 4)
ハグリッドのセリフは方言で書かれており、「you」が「yeh」「yer」、「and」が「an'」になります。意味は取れますが、音読したときにどう発音するのか、なぜこう書いているのかが分からないと読書のリズムが乱れます。
こういった「子ども向けなのに分からない」という体験は、英語学習の視点ではむしろ重要なポイントです。ネイティブの子どもが自然に吸収するイディオム・口語・方言のリズムが、そのまま詰め込まれているからです。
登場人物が魔法を使い、空を飛び、モンスターと戦っているため、日常会話で使う語彙が登場しにくいのは事実です。「コーヒーをください」「会議は何時ですか」のような実務的な表現は出てきません。スピーキングに直結させたい人には、この点で物足りなさがあります。ただし、これは「物語」というジャンル全般に言えることで、ハリーポッターに限った話ではありません。
私がハリーポッターを選んだ最大の理由がここにあります。内容を全部知っている本を英語で読む、という体験は、他の教材では再現できません。
知らない単語が出てきたとき、内容を把握していれば文脈から意味を推測して読み進められます。日本語版を読んでいれば「ここはあの場面だ」と分かっているので、分からない単語があっても立ち止まらずに読める。これが多読の本質的な仕組みです。逆に言うと、内容を知らない本で多読をしようとすると、単語の意味が分からないたびに物語全体が止まってしまう。
ハリーポッターで特有の強みは、「主人公と一緒に自分も成長していける」という設計にあります。1巻の平易な英語でスタートし、7巻の複雑な文章に辿り着くまでの間に、読んでいる自分の英語力も伸びている。英語の成長と物語の成長が同時進行する。これは英語初心者だけが持てる特権で、一度英語が読めるようになってしまった人には逆に体験できません。
私自身の話をすると、多読を続けてTOEICのスコアが360点から870点まで上がった経験があります。その軸になったのがハリーポッターでした。詳しい学習法は別記事に書いていますが、「内容を知っている本を英語で読む」ことが多読においてどれだけ有効かは、自分の体験として断言できます。
ハリーポッターが英語学習教材として特殊なのは、シリーズ全体が読者の成長に合わせて設計されているという点です。これは偶然ではなく、J.K.ローリングが10年以上にわたってシリーズを書き続ける中で、実際の読者が成長していったからです。
1997年に1巻が発売されたとき、読者の中心は子どもでした。10年後の2007年に7巻が出たとき、その読者たちは成人していた。ローリングは自分の読者が成長することを知りながら書いており、それが文章の難易度に反映されています。
これは英語学習者にとって理想的な設計です。1〜2巻の平易な英語で多読の感覚をつかみ、3〜4巻で読むスピードが上がり、5巻以降の複雑な文章に挑戦する。一つのシリーズの中で自然にレベルアップできます。
ハリーポッターシリーズの各巻の語数を比較すると、難易度の変化が数字でわかります。
| 巻 | タイトル | 語数(目安) | 難易度の特徴 |
|---|---|---|---|
| 1巻 | 賢者の石 | 約77,000語 | 魔法用語の初出が多く説明がある。文章は比較的シンプル |
| 2巻 | 秘密の部屋 | 約85,000語 | 1巻より少し長いが難易度は近い。最も読みやすい2冊 |
| 3巻 | アズカバンの囚人 | 約107,000語 | 心理描写が増え始める。このあたりから「慣れてきた」感が出やすい |
| 4巻 | 炎のゴブレット | 約190,000語 | 一気に語数が増え、描写が詳細になる。ここで挫折者が多い |
| 5巻 | 不死鳥の騎士団 | 約257,000語 | シリーズ最長。政治的・心理的に複雑な展開。英文も難化 |
| 6巻 | 謎のプリンス | 約168,000語 | 5巻より短いが、内容の密度は高い |
| 7巻 | 死の秘宝 | 約198,000語 | テンポが速く、意外と読みやすいとの声も多い |
英語学習が目的なら、1〜3巻で多読の感覚を身につけ、4巻以降は実力がついてから挑戦するという方針が現実的です。「全巻読まなければ意味がない」ということは全くなく、1〜2巻だけでも相当な語彙と読解力が身につきます。
ハリーポッターの呪文のほとんどはラテン語に由来する造語です。「造語だから実用的でない」と言われますが、実はこれが英語学習において面白い入り口になります。なぜなら、英語の語彙の多くもラテン語に由来しており、呪文の語源を知ることで実際に使う英単語につながるからです。
ラテン語の「lumen(光)」に由来。ここから英語の「illuminate(照らす)」「luminous(発光する)」「illumination(照明)」が生まれています。「illuminate the room」(部屋を照らす)は日常的に使える表現です。
ラテン語の「expellere(追い出す)」と「arma(武器)」から。「expellere」からは英語の「expel(退学させる・追い出す)」が生まれています。「He was expelled from school.」(彼は退学させられた)は使いやすい表現です。
「expect(期待する・待つ)」と「patron(保護者・後援者)」がそのまま使われています。英語の「patron」「patronize」「patronage」などに直結しています。日本語でも「パトロン」として定着している言葉です。
「petrify(石化させる・硬直させる)」と「total(全体の)」から。「I was petrified.」は「(恐怖で)固まってしまった」という意味の日常表現として使われます。映画やドラマでよく聞く表現です。
ラテン語「oblivio(忘却)」から。英語の「oblivious(気づいていない・忘れている)」に直結しています。「She was oblivious to what was happening.」(彼女は何が起きているか気づいていなかった)は使える表現です。
このように、「どうせ造語だから」と流すより、「これはどこから来ているんだろう」と調べる習慣をつけると、ハリーポッターを読みながら自然と英語の語根(root word)への理解が深まります。英語の語彙拡張において語根の理解は非常に効果的で、一つの語根から派生する単語を芋づる式に覚えられます。
最も重要なアドバイスです。英語版から読み始める前に、日本語版を読むか、映画を見ておくことを強くおすすめします。「内容を知っている」状態で英語を読むと、知らない単語があっても文脈で補えるため読むスピードが格段に上がります。これが多読の本質的な仕組みです。
多読の基本として、知らない単語が出るたびに辞書を引く読み方は避けます。目安として、1ページに3〜4個以上分からない単語があるなら辞書を引いても構いませんが、1〜2個程度なら文脈で推測しながら読み進めます。辞書を引くたびに読書のリズムが止まり、「物語を楽しむ」感覚が失われます。
紙の本でも読めますが、Kindleで読むと単語を長押しするだけで辞書を引けます。読みながらの語彙確認が格段にスムーズで、英英辞書設定にしておくと「英語で英語を理解する」訓練にもなります。ハリーポッター全7巻はKindle Unlimitedの対象になることがあるので、試し読みに最適です。
1巻の賢者の石は約223ページ(ペーパーバック版)なので、1日15〜30ページ読めば2〜3週間で読み終わります。最初は遅くても構いません。2巻に入るころには読むスピードが上がっているはずです。
1〜2巻の段階で「やっぱり難しすぎる」と感じる人は多いです。しかし3巻の途中で「頭から英語が入ってくる」感覚が来ることが多い。この感覚が来る前に辞めてしまう人が非常に多いため、「3巻の途中まで来るまでは辞めない」と決めておくのがおすすめです。
向いている人
- ハリーポッターが好き、または日本語版か映画を見たことがある
- イギリス英語・イギリス文化に興味がある(留学含む)
- 英検準2級〜2級程度の基礎がある
- 多読で英語を学びたい、語彙力を増やしたい
向いていない人
- アメリカ英語の日常会話を磨きたい(別の教材が向く)
- 英検3級以下で基礎が固まっていない(先に基礎を固める方が効率的)
- ハリーポッターに全く興味がない(好きな別の作品で代替可能)
「ハリーポッターは英語学習に向かない」という意見と、「ハリーポッターメソッドは最強だ」という意見が両方あります。どちらも一面では正しい。
私の結論は、「ハリーポッターが好きで、内容を知っていて、続けられると思う人には最高の教材になる」ということです。「造語が多い」「日常語彙が少ない」は事実ですが、毎日100ページ読み続けられる教材のメリットはそれをはるかに上回ります。
英検3級、英語絶望状態からイギリス留学を目指した自分が、2〜3巻読み終わった頃に「頭から英語が入ってくる」感覚を初めて体験し、最終的に全7巻を読み終えました。1巻の「全然わからない」が、7巻ではほぼ引っかからずに読めていた。同じシリーズで自分の成長を確認できる体験は、ハリーポッターならではだと思っています。
