バズる仕組みを科学で解明した洋書「Contagious」感想・要約【STEPPS全解説】

この記事でわかること
  • 「Contagious」がマーケティング本の中でなぜ読む価値があるのか
  • バズる・口コミが広がる仕組みを説明する「STEPPS」6原則を全解説
  • 英語版の難易度と、英語多読教材としての使い勝手
  • 読んでて「引っかかった点」
  • マーケター以外の人が読んでも面白い理由

「なぜあの動画は2億回も再生されたのか」「なぜあの商品だけ口コミが止まらないのか」そういう問いに、感覚でなく科学で答えた本があります。

マーケティングの本、と聞くと少し身構えますが、実際に読んでみるとこれは「人間の行動心理の本」です。なぜ人は特定のものを人に話したくなるのか。その理由を、ウォートン・スクールの教授が10年間の研究をもとにまとめた一冊です。

「Contagious: Why Things Catch On」 Jonah Berger 著

なぜこの本を読んだのか

きっかけは単純で、私がイギリスに行った頃、友人に英語学習の一環として勧められたからです。

英語圏のマーケティング界隈では「The Tipping Point(マルコム・グラッドウェル)の実践版」として何年も読まれ続けている本で、当時Oxford大学周辺に住んでいたのですが、店頭のフロントにも飾られていました。

基本情報
タイトル Contagious: Why Things Catch On
著者 Jonah Berger(ジョーナ・バーガー)
出版 2013年3月(Simon & Schuster)
特徴 どのようにバズる(伝染)のか科学的な視点からの考察
ページ数 約240ページ(英語版ペーパーバック)
受賞 NYタイムズ・ウォールストリートジャーナル ベストセラー。"Best Marketing Book of the Year" 受賞
ジャンル マーケティング / 行動心理学 / ビジネス
著者について

ジョーナ・バーガーはペンシルバニア大学ウォートン・スクール(ペンシルバニア大学の経営大学院で、世界最高峰のビジネススクールのひとつ)のマーケティング教授です。ウォートン校で最も評価の高いオンライン講座を担当していることでも知られています。

口コミ・社会的影響・消費者行動の研究を専門とし、Contagious以外にもInvisible Influence(インビジブル・インフルエンス)、The Catalyst(キャタリスト)などの著書があります。

特徴的なのは、彼が「学術研究者でありながら、実務に直結する言語で書く人」だという点です。論文を25本以上発表しながら、その知見を一般読者が読める形に落とし込む能力が高い。NYタイムズ・WSJ・ハーバードビジネスレビューなどに頻繁に寄稿しており、Nike・Google・Appleなど大企業にもコンサルティングを行っています。

この本が問いかけること

この本の中心にある問いは一つです。

"What makes things popular? If you said advertising, think again. People don't listen to advertisements, they listen to their peers."

「なぜ人は特定のものを話したくなるのか」というのが本当の問いです。広告ではなく、口コミ。SNSではなく、人間の本能に近い部分。バーガーはそのメカニズムを10年の研究で分解し、6つの原則(STEPPS)にまとめました。

本書の序章でバーガーが示す衝撃的な数字があります。製品やサービスに関する口コミの約90%はオフラインで起きている、というものです。SNSでバズることばかりが注目されますが、実際には対面での会話の方が圧倒的に多い。この逆説的な事実から、本は始まります。

STEPPS 6原則を全解説

バーガーが提唱する「STEPPS」は、口コミが広がる際に共通して働く6つの原則の頭文字です。

STEPPSとは
Social Currency(ソーシャル・カレンシー)
Triggers(トリガー)
Emotion(感情)
Public(人の目に触れる)
Practical Value(実用的な価値)
Stories(物語)
① Social Currency(ソーシャル・カレンシー)

人は「自分が賢く見える情報」「特別なものを知っている人間に見える情報」を共有したがる、という原則です。

バーガーが挙げる事例の中で最も印象的なのが、フィラデルフィアの高級ステーキハウス「Barclay Prime」のチーズステーキです。このレストランは100ドルのチーズステーキをメニューに加えました。本来チーズステーキは安価な食べ物。でも「あそこの100ドルのチーズステーキを食べた」という話は、それだけで会話のネタになる。話した人が「面白い経験をしている人」に見える。これがソーシャル・カレンシーです。

もう一つの事例はニューヨークのバー「Please Don't Tell」。電話ボックスを隠し扉として使い、裏に入ると本物のバーがある。この「秘密を知っている」という感覚が、口コミを生み出します。知っていること自体が社会的な価値になる。

② Triggers(トリガー)

製品やアイデアを「頭に浮かびやすい環境」と結びつけると、自然と話題に上がりやすくなる、という原則です。

バーガーが挙げる有名な例は、レベッカ・ブラックの「Friday」という曲です。曲自体の評価は賛否両論でしたが、毎週金曜日になるとこの曲が聴かれ、話題になる。「金曜日」という環境が自動的にこの曲を呼び起こすトリガーになった。

さらに面白い例が、NASAの火星探査機「パスファインダー」が火星に着陸した1997年、Marsチョコレートバーの売上が急増したというデータです。「Mars(火星)」というトリガーが、「Marsバー」を想起させた。製品自体は何も変わっていないのに、環境が口コミを生み出した。

この原則から学べるのは、「いつ語られるか」を設計することの重要性です。単発のキャンペーンより、日常的なトリガーと結びつく方が長く語られる。

③ Emotion(感情)

感情が動いたとき、人は共有したくなる。ただし全ての感情が同じように機能するわけではない、というのがこの章のポイントです。

バーガーが研究で明らかにしたのは、「覚醒度(arousal)の高い感情」が共有を促すという点です。怒り・畏敬(awe)・面白さは覚醒度が高く、共有されやすい。

一方、悲しみや満足感は覚醒度が低く、共有されにくい。つまり「感動した」より「すごい!」「なんで?!」の方が拡散する。

もっとも面白いと感じたのが、この「覚醒度」という概念の精度です。直感的には理解できても、実際にコンテンツ設計に落とし込むにはもう少し具体的な指針が欲しい、という声がありました。これはこの本全体を通じた「もう一歩踏み込んでほしい」という感覚と共通しています。

④ Public(人の目に触れる)

人は他の人がやっていることを見て、自分の行動を決める。目に見えるものが模倣を生む、という原則です。

バーガーが挙げるのは、Apple製品の白いイヤフォンです。iPodが出た当初、白いイヤフォンは「Appleユーザーだ」と一目でわかるシグナルになりました。街でその白いコードを見るたびに「あの人も使っている」という認識が積み重なる。製品が「公に見えている状態」であることが、口コミを超えた拡散を生みました。

この原則のポイントは「プロダクト自身が広告になる」という発想です。使っている様子が他者の目に触れることで、製品が自己増殖的に広まっていく。

⑤ Practical Value(実用的な価値)

役に立つ情報は共有される。特に「具体的な数字が入った情報」「誰かの生活を改善する情報」が強い、という原則です。

バーガーが紹介するのは、とうもろこしの皮を綺麗にむく方法を解説したYouTube動画です。5百万回以上再生された実用動画で、視聴者の大半は「これ友達に教えたい」と思ったはずです。情報の価値が、共有のモチベーションになった。

また、値引きの見せ方の研究も面白い。100ドルの商品を10ドル引きにするより「10%引き」と表示する方が小さく感じる。でも10ドルの商品なら「10%引き」より「1ドル引き」の方が価値を感じる。「百ドルルール」として、金額が大きい場合は%表示、小さい場合は金額表示が効果的だというのは、実際にビジネスに使える知見です。

⑥ Stories(物語)

人は情報をそのまま伝えるより、物語として伝える。そして良い物語には、情報が自然に埋め込まれている、という原則です。

バーガーが挙げるのはSubway(サブウェイ)のJaredの話です。Jaredという肥満の大学生が、毎日サブウェイのサンドイッチだけを食べてダイエットに成功したという実話。

これはサブウェイが意図的に作った広告ではなく、個人の体験談でした。でも「ヘルシーな選択肢」というメッセージがJaredの物語の中に埋め込まれていた。物語を共有するとき、その中にあるメッセージも一緒に伝わる。

この章のキーワードは "Trojan Horse"(トロイの木馬)です。物語が馬で、伝えたいメッセージが中に隠れた兵士。物語が広まることで、メッセージも広まる。

英語難易度と読みやすさ
難易度目安
TOEIC 600点以上あれば語彙的には問題なし。マーケティング用語は多いが、著者が必ず具体例で説明するので文脈から理解できる。一文一文が短く、段落もコンパクト。洋書の中では読みやすい部類。

文体は軽快で読みやすいです。Financial Timesが「an easy, breezy read(気持ちよく読める)」と評したのは納得で、英語学習者にとってもストレスが少ない文体です。一文が短く、段落ごとに具体例が来るので、英語を頭から処理する練習になります。

比較軸 Contagious The Tipping Point(グラッドウェル)
文体 軽快・シンプル。段落短め ストーリー重視。やや文学的
英語難易度 ★★★☆☆(TOEIC600〜) ★★★★☆(TOEIC700〜)
実用性 高い。フレームワーク(STEPPS)が明確 中程度。概念的な議論が多い
事例の数 多い。章ごとに豊富 多い。ただし深掘りが長い

英語多読教材として考えると、「読みやすくて実用的」という点では Contagious がおすすめ。ビジネス英語の語彙(word of mouth、social transmission、trigger、remarkableなど)が自然な文脈の中で繰り返し出てくるので、マーケティング系の語彙強化にも向いています。

英語圏の評価:何が刺さって、何が物足りないか
高く評価できる、今読むと特に面白い。

「読み始めたら止まれない」「自分の行動を振り返る本だった」というのが私の感想です。

事例も身近に感じやすいです。Rebecca Blackの「Friday」、NASAとMarsバーの関係、Subwayのダイエット話……これらはアメリカ人なら誰でも知っているエピソードですが「ああ、あれはそういう仕組みだったのか」と納得出来るエピソードもちゃんとあります。例えば、マクドナルドのCMをコンマ0何秒以下で放送したところ、売り上げが伸びたというエピソードが面白かったです。

「もう一歩」だと感じた点

まず一つ目は、後半の章(特にTriggersとPractical Value)が前半に比べて学術的な根拠が薄い、という点。

事例の説明はわかりやすいのに、なぜそれがその原則に該当するのかの論拠が弱く感じる章があります。二度読みすると腑に落ちるが、初読ではそれぞれの原則の「境界線」が曖昧に感じると。

二つ目は、STEPPSの6原則が相互に独立しているように見えて、実際には重複する部分が多いという点です。最も拡散したコンテンツはSTEPPSの複数要素を持っているわけで、「どれを優先すればいいのか」という実装の優先順位が見えにくい。

ただしオフラインによる拡散、という観点は、特に今のネットワークの時代に読むと面白い。マーケターでなくても読む価値があると思いますしs、読解後は自分の消費行動に対する解像度が高まったと思いました。

正直な感想
良かったところ
  • 読む前と後で世界の見え方が変わる:読み終えてから、流行っているものや話題になっているコンテンツを見るときに「これはどのSTEPPSが効いている?」と考えるようになった。知識が「フィルター」になる感覚がある本は少ない
  • 事例が記憶に残る:フレームワークを覚えなくても、ブレンデックの動画・Jaredのダイエット・白いイヤフォンの話が頭に残る。事例を通して原則が身体に入ってくる書き方が巧みです
  • 英語文体が美しくシンプル:翻訳調にならない自然な英語で書かれていて、「英語を読む」練習としても質が高い。接続詞の使い方、段落の組み方が参考になる
  • 240ページで読み切れる:内容の密度を考えると驚くほどコンパクト。長い本が苦手な人でも、週末に読み切れます
引っかかったところ
  • 「実際にどう使うか」は自分で考える必要がある:フレームワーク自体は明確なのに、自分のプロジェクトや仕事にどう当てはめるかの橋渡しは少ない。「学ぶ本」ではあるが「実装する本」ではない
  • アメリカ中心の事例:ほとんどの事例がアメリカ発。日本のブランドや文化に置き換えたとき、同じ原則が同じように機能するかどうかは、読者自身が判断する必要があります
  • 原則の境界が曖昧な部分がある:STEPPSの各要素が「なぜ別々の原則として分かれているのか」が一部の章で腑に落ちない、論理性が足りないと感じる部分がある
こんな人に特におすすめ
  • 「なぜSNSで流行るのか」を感覚でなく構造で理解したい人
  • マーケターでなくても、自分のアイデアを「広まりやすい形」にしたい人(ブロガー・クリエイター・教師・医療従事者にも読まれている本です)
  • TOEIC 600点以上で、ビジネス系の英語多読を始めたい人
  • マルコム・グラッドウェル『The Tipping Point』を読んで「もっと実用的なものが欲しい」と感じた人
  • 影響力の武器(チャルディーニ)が面白かった人:人間の行動心理にアプローチする視点が似ています
こんな人には要注意
口コミやバズを「今すぐ作れる具体的な手順書」として期待すると、物足りなさを感じるかもしれません。この本はフレームワークを与えてくれますが、それを自分の状況に当てはめるのは読者自身の仕事です。また、事例がアメリカ中心なので、日本市場への適用は別途考える必要があります。

この本を読んで一番刺さった一文があります。

"People don't think in terms of information. They think in terms of narratives. But while people focus on the story itself, information comes along for the ride."

人は情報を情報として伝えない。物語として伝える。でも物語を伝えているとき、情報はその中に乗っかってついてくる。この一文は、文章を書くときも、ブログの記事を書くときも、プレゼンをするときも、ずっと頭の中に残っています。